2012年4月1日日曜日

私のジャズ(65)

You'd be so nice to come home to
松澤 龍一

村尾睦男著 「ジャズ誌大全」









You'd be so nice to come home to 言わずと知れたコール・ポーターの名曲である。洒落た英語で、訳すのが難しい。「帰ってくれて嬉しいわ」などと訳されているのを見たことがあるが、どうも違うような気がする。帰ってくるのを待つ方の気持ちを歌ったのではなく、帰る方の気持ちを歌ったように思える。

You'd は You would で昔習った仮定法過去。でも If で始まる条件節が歌詞のどこにも見当たらない。省略されている。この辺りが洒落ている所以だろう。つまり、You'd be so nice to come home to は、「もしあなたが居るのであれば、とても嬉しい」とか「もしあなたが待っていてくれるのであれば、飛んで帰りたい」と言うことではないのかと思う。間違っているかも知れない。碩学の士の教えを請いたい。

「ジャズ誌大全」という名著が刊行中である。第一巻の初版が1990年5月で、第19巻が2005年7月で、全巻、私の書庫に揃えている。このブログを書くに当たって調べたら、なんと第20巻が最近出されたようだ。10年以上に亘り出版され続けていることになる。著者は村尾睦男さんと言う方で、私にとっては村尾睦男先生である。アメリカのスタンダード、あるいはスタンダード・ポップと呼ばれる歌を、その歌詞を中心に、実に丁寧に解説している。You'd be so nice to come home to を先生は「きみが待っていてくれるなら、うちへ帰るのはさぞや楽しいだろうな」と訳されている。でも、このように条件節を付けて訳されると、どうも、くどくてスマートでは無い。You'd be so nice to come home to は英語そのままに感じるのが良いのだろう。

この歌の極めつきは何と言ってもヘレン・メリルがクリフォード・ブラウンと一緒にやったレコードである。これはヘレン・メリルの定番であり、共演しているクリフォード・ブラウンの名演としても名高い。歌の後、ピアノの単調なソロの次に出るクリフォード・ブラウンのトランペットが素晴らしい。クリフォード・ブラウンの生涯最高のソロと、昔皆で言っていた。


ヘレン・メリルは、恐らく80近いが、まだ唄っている。全盛の頃から思っていたが、あまり上手い歌手では無い。はっきり言ってヘボである。でも、美人だから良しとしよう。