2012年4月22日日曜日

尾鷲歳時記(65)

山菜浄土
内山思考

子の声や田螺の世界すぐ濁る  思考

蕨と筍と油揚げの煮物








「春はタケノコ、やうやう時季となりたる、竹藪少し明かりて、鍬を提げたる人の、遅く歩き来たる」 タケノコが夏の季語だというのがどうも解せない。僕の住むあたりでは、3月に入れば走りが採れる。猪に至っては前の年の12月にもう、その嗅覚を使って竹藪を荒らしに来るというから凄い。だから立夏をすぎればタケノコというよりタケノアニキぐらいになっているはずだ。

晩春の野山は山菜の宝庫である。まずイタドリ(虎杖)。尾鷲の人たちはこの路傍の賢者のように立つ植物を殊のほか愛する。天気の良い日、山道(時には国道)に車が止まっていたら、それはまず、イタドリ採りの翁か媼と思って間違いない。それが目的でなくても、散策のついでにイタドリが目に付けば2、3本だったとしてもポン、ポンとあの開放的な感触を感じながら折り取って帰る。

イタドリはさっと湯通しをし、皮を剥いて一晩水に晒して明くる日にカツオの焼き節と一緒に煮たりする。冒頭のタケノコは重曹、木灰、備長炭、糠などを入れた湯で炊いて灰汁を抜き、やはり一晩水に晒して煮物にするなどバリエーションは沢山ある。柔らかい先端部より少し固いぐらいの部位が僕は好きだ。

ゼンマイ、ワラビも欠かせない。先日、街で親類のおばちゃんに会ったので「どこ行くん?」と聞くと「ゼンマイ採りさ、ストレス解消にちょうどええんじゃいハルちゃん」と満面の笑みで答えてくれた。万葉時代から草摘み、野遊びは女性の心身に活力を与えるレクリエーションなんだ、と改めて実感した。
届いたタラの芽、
これから天麩羅にする

しかし僕にとって山菜の王はやはりタラの芽である。幹にトゲがあるうえにかなり山奥へ行かないと数が採れないから希少価値も高い。我が家では妻の友人が毎年どっさり届けてくれるので、そんな日の夜は山盛りのタラの芽の天ぷらがメインディッシュとなる。市販されているのは親指ほどのものがほとんどだが、本当は少し茎が伸びている方が風味も歯応えもあって美味なのである。