2012年5月27日日曜日

尾鷲歳時記(70)

六月まぢか
内山思考

二百里の旅より帰り豆の飯  思考

タケノコから竹へ
昨日、知人に小ガツオを貰った。とれ立てだからもう眩しいぐらい銀色に輝いている。30センチほどか。これは刺身には生臭くて向いていないので、じっくり白焼きにする。これをこのあたりでは「焼き」という。そのまんまのネーミングである。焼いてすぐの熱々の身をむしり、ショウガ醤油で食べるともうたまらない美味しさだ。その証拠にこれとキュウリの浅漬けだけで丼三杯の飯を平らげた。こういう海の幸はやはり地元でないと味わえない。大いに幸せである。

「ああ、おいしかったあ」と熱いお茶を最後に一啜りしてから、食べる前に写真を撮って置けば良かったと後悔した。先週もそうだった。市外梶賀町の名産「小サバの炙り」がやっと手に入った嬉しさにまず食べてしまったのである。空腹を満たすのが先で、写メールで撮ってコラムに使おうとする意欲が飛んでしまっているのである。もっとも、どれだけ美味であろうが、写真だけ見せられても有り難くないだろうけど。

力漲る楠の大樹(尾鷲神社)
それにしても、日々同じような時間割で動いている内に、月日はどんどん流れて、もうそこに六月が見えて来た。一年の半分ではないか。そうこうする内にこの辺りは梅雨に入る。つかの間の晴れ間にセミの声が湧き始め本格的な夏の到来である。親から授かった健康だけを取り柄に五十代最後の半年を黙々と過ごすことにしよう。 と書いたところで、沖縄の俳友S子さんから電話が入った。今日は句会兼おしゃべりの日で何人か寄っているから一人づつ声を聞かせてくれるという。

最初に出たのはT子さん、沖縄箏の名手である。昨年は会えなかった。次がK子さん、いつも静かでやさしい笑みを絶やさない人だ。三人目がY子さん、今帰仁で食堂を経営している。「てびち煮つけ」「てびちおつゆ」「てびちそば」「三枚肉そば(大)」「三枚肉そば(小)」などのお品書きが壁に貼られていたのを思い出す。姉御肌のS子さんはまとめ役である。元気一杯の声の後ろで柱時計のものらしい時報が聞こえたので、反射的に僕も受話器を持ったまま壁を見ると、時計は丁度午後8時を指していた。