2012年6月24日日曜日

尾鷲歳時記(74)

ほんの半世紀
内山思考


時は金泥空は銀泥燕子花  思考

アサヒグラフ昭和35年当時は70円











六月にしては珍しく上陸した台風が去り、また元の梅雨ごもりである。 昨夜は炭を窯から取り出す「かまだし」作業があったので帰宅は深夜2時、空腹を堪えて入浴就寝、しかし高熱の肉体労働の後はなかなか寝付かれず、しばらくテレビを無音で(隣で妻が寝ている)見る。モデルの押切もえさんが老舗旅館の仲居を実際に体験するという番組の再放送で、内容も面白かったがやはり素人さんに混じると彼女の美しさが際立つことに感心・・・しつつ、いつの間にか熟睡。

朝、家族はそれぞれ仕事に出掛けて、自分はゆっくり寝ていたかったが、今日も幾つかのノルマを果たさねばならず、まず額装用の俳句を書くことから始めた。昨夜、大樹主宰から「思考さん、大樹展の作品まだよ、健斉さんのもね」と催促があったのだ。朦朧とした心身を励ましながら紙と筆と墨を用意。畳を汚さぬよう新聞紙を敷いた上で「口中に汐の満ちたる海雲かな 思考」を書いて落款を押す。青木健斉上人の分は頂いたのが沢山あるので、その中から「蟻たちは人に聞かれぬよう話す 健斉」を選ぶ。簡単な手紙と共に雨の中、郵便局へ。これで一つ完了。

次はこのコラムだ。さっき本棚の一番上から半紙を降ろすとき古い「アサヒグラフ」が数冊、埃を被っていたのを見つけたのでそれを眺める。熱いコーヒーも啜る。発行された1960(昭35)年と言えば僕が小学一年の頃だ。僕は自分の少年時代の世相風俗にとても興味があって古本市があると関連した雑誌を探す。そして大抵それは売れ残っているものだ。

昭和30年の(なかよし)、
安田章子ちゃんて今の誰?

ダイハツのミゼット、東芝の家電品、カメラのオリンパスペン、などは当時のメカニズムの最先端。ジャズ・ピアニストの秋吉敏子さんは31才、バレエの新星、森下洋子ちゃんは12才と皆さん輝いている。特集も豊富だ。「(もう)七羽前後しかいないトキの保護を訴える野鳥クラブの少年」や「ノリの漁場を工業用地として売却し、年間収入の十年分もの補償金を貰って笑いが止まらない漁民たち」など、その後の顛末をしっているだけに読んでいてちょっと複雑な気持ちになった。