2012年6月10日日曜日

私のジャズ(75)

チック・コリア
松澤 龍一

 chick corea - return to forever
 (ECM UCCU-5008)












前回紹介したキース・ジャレットとほぼ同じころに登場したピアニストにチック・コリアがいる。プエルトリコ人で、アート・ブレイキーに見出された。二人ともバッド・パウエルから繋がる、いわゆるハード・バップのピアニストの系列から外れたプレーヤーである。ビル・エバンスがちょっと飽きられたころ、颯爽とジャズ・シーンに現れ、随分と注目をされた。当時、スタン・ゲッツがリリースしたニュー・アルバムの Sweet Rain でチック・コリアがピアニストで参加している。スタン・ゲッツよりも、このプエルトリコから来た新人のピアニストに注目が集まったのは言うまでもない。

確か、チック・コリアのレコードは数枚あったと思っていたが、捜しても今のレコード棚に無い。恐らくは仕分けされてしまったのだろう。仕方ないので、家の前にある図書館に行ってCDを数枚借りて来た。上掲のCDはその中の一枚で、アルバムの写真(当時はレコード・ジャケット)がジャズぽくなくて目を引いた。中味の演奏はひどい。最後まで聴き通すにはかなりの忍耐がいる。こんなムード・ミュージックがジャズと言うジャンルの括りに入っていることが情けない。マウントバーニーを聴いた方が遙かにましだ。録音は1972年とそんなに新しくは無い。そんな昔に、今のスムース・ジャズなどと称する訳の分からない音楽の下地があったとは驚きである。

以前レコードで所有していた NOW HE SINGS, NOW HE SOBS 、チック・コリアの名盤である。このアルバム辺りでチック・コリアのジャズ・プレーヤーとしての資質は燃え尽きたのだろう。共演しているドラマーが、ちょっと話題になった。このドラムを聴けば、恐らくト二―・ウィリアムスかジョ―・チェンバース辺りを想像するが、なんとこれがロイ・ヘインズと知ってびっくり。最も正統派のドラマーの系列に繋がるロイ・ヘインズがト二―・ウィリアムスの真似かよと思ったが、ロイ・ヘインズからすれば、「若者よ、君等の新しいドラミングなど、ほらこの通り、お茶の子サイサイだよ」とでも言いたいのだろう。