2012年8月5日日曜日

尾鷲歳時記(80)

脱稿の夜
内山思考

どこまでが大阪の空夾竹桃  思考

物語の舞台は尾鷲ならぬ尾鷹









紀勢新聞に連載している連続怪奇小説「怪談屋妖子」の百話、つまり最終回を書き終えた。一昨年の10月から週に一度の掲載で、ちょうど今年の10月で終了の予定である。7月現在87話。一回が原稿用紙四枚ほどでトータル四百枚だから大して長編とは言えないが、俳句とはまったく関係ない分野なのである意味新鮮な思考が楽しめる変わりに、モチベーションを喚起するのが難しかった。

なにしろ、魑魅魍魎が跳梁跋扈する世界をイメージするのに 「お父さん、洗濯物片付けて」とか 「早く食事しないと冷めてしまうやないの」 と妻の甲高い声が飛んでくる環境ではとても集中出来るはずもない。それに夜は他の原稿を書きたい、新聞の二度見がしたい、テレビが見たい、息子に借りたコミックが読みたい、早く寝たい、と忙しい。

だからどうしても誰もいない午前中に心落ち着けて異次元モードに入る必要があるのだが、そんなチャンスはあまりない。毎回、時間をやりくりしてやっとあと十話を残すばかりになったら、今度は作中人物に対する思い入れが強くなって終わるのが淋しくなってしまった。主人公の妖子は妖魔界から来た妖怪で、人間の姿をしている時は色白で長い黒髪の美少女である。普段は清楚だが、闘いとなると無類の強さを発揮する。しかも巨乳、とまるきり筆者の好みのキャラクターに仕上げてある。だからいよいよ別れが辛い。それでもやっと思い通りの結末にして後は新聞社に原稿を届けるだけ、と思ったら急に脱力感に襲われた。

挿し絵も僕
テレビで二時間ドラマを見ながらパソコンゲームをしている妻に「怪談屋全部書いたで」と言ったが、こちらも見ずに 「あ、そう」とにべもない返事。そもそも、我が家の家族は誰も「怪談屋」を読んでないのだから話にならない。それはそれで気楽な面もあるのだが・・・・。誰かに脱稿を報告したくて、「風来」同人でメル友の玉記久美子さんに知らせると 「お疲れ様、あと淋しくなるのでは」と返してくれたので、少し気が休まった。何だか「歳時記」らしくないボヤキになってしまって反省。