2012年8月12日日曜日

尾鷲歳時記(81)

甲虫 感あり
内山思考

盂蘭盆の墓地を銀座と思うなり  思考

この数秒後、玉虫は飛び立った

















オリンピックに夢中になっている内にお盆がやってきた。 僕の家は天狗倉山の麓で、内山家の墓は尾鷲の北隣の紀北町へ続く馬越峠の登り口にある。そこには数百基の墓が並んでいて、妻が子供の頃はあたりが森だったせいもあり近づくのが怖かったそうだが、今はまわりの木々は切り払われ家も間近に建ち、見晴らしのいい丘陵地になっている。墓地の真ん中を通る坂道は世界遺産に登録された熊野古道の一部なので、峠の方からハイカーがぞろぞろ下りてくるのをよく見かける。大抵、全員が爽やかな顔をしている。

お盆は一転して墓参の人で大いに賑わい、こちらも皆さん俗臭の抜けた顔に見えるのは先祖と魂の会話をしているからだろうか。お墓と言えば僕の実家のある十津川村は、明治の廃仏毀釈以来神式だから墓前に榊、米などを供え柏手を打つ。三十数年前尾鷲に来た頃の僕は、仏式の合掌に慣れてないのでお葬式で焼香をするたびに手がムズムズして困ったものである。

ところで以前、実家の墓地で玉虫を発見し、ああ美しいと手を出したが逃げられて悔しかった思い出がある。その夢の玉虫を二、三日前、炭焼の親方と山へ行った帰り道で見つけて今度は手中にした。生きた玉虫に触れるのは多分、生まれて初めてだ。自然は何故こんな綺麗な生き物を作ったのだろうと暑さも忘れて感動した。腹の方まで色鮮やかなのには驚いた。写メールを撮るために、親方に持って貰い太い指を這っているところを一枚撮った瞬間、玉虫は輝く羽根を広げてあっという間に空へ消えてしまった。

御在所岳の
鍬形虫
虫と言えば先週、義兄の初盆のついでに姉の一家と御在所に行き、その夜は湯の山温泉に泊まったのだが、甥がホテルの外で大きな鍬形虫を捕まえて来た。六センチ以上はあるだろう。ペットショップに持ち込めばかなりの高値になる、という現実的な話も出たが結局、夜通し甥たちの部屋を飛び回り、どこかにぶつけたらしく脚がもげそうになっていて、朝、ホテルを出がけに鍬形虫は御在所の山へ解放されたのであった。