2012年8月5日日曜日

私のジャズ(83)

弾き語り
松澤 龍一

 FREE SOUL
のレコード・ジャケット












このネフェルティティのような黒人女性、二―ナ・シモンと云うジャズ・ピアニストである。弾き語りで歌も唄うようになった。歌の方が有名になり、二―ナ・シモンと云えばジャズ・シンガーと云われるようになった。ピアノも個性的だが、歌はもっと個性的である。野太い声、野性味溢れる節廻し、これほど黒人を前面に出した唄い方をする歌手を他に知らない。ブルースとも違う。エラやビリー・ホリデイとも違う。ウーマン・リブ運動や公民権運動などを経て、新しく勝ち取った黒人女性の心意気なのだろうか。

50年代、60年代には人気が高かった。事実、二―ナ・シモンを聴いてジャズ・ファンになった人も結構いた。でも、私自身はあまり好きになれなかった。ピアノももう一つ、歌に至っては、あまりの中性的(あるいは、男性的)な声に辟易となる。



数年ぶりにCDを買った。岡千秋の弾き語りのCDである。岡千秋は演歌の作曲家で、多くのヒット作を書いている。彼がピアノの弾き語りで演歌を唄っている。船村徹もそうであったが、演歌の作曲家は、声量とか声の良し悪しは別にして、歌が上手い。どんな曲を唄っても歌心に溢れている。岡千秋の声は誰が聴いても悪声である。でも、そのだみ声の後ろに心がある。歌の心がある。演歌の心がある。
ユーチューブで一曲聴いて、矢も盾もたまらずCDを買ってしまった。どの曲も心に沁みる。やはり、私の心の底には、57調の韻律と5音階の調べが流れているようだ。歳をとるごとにそう感じる。