2013年2月10日日曜日

尾鷲歳時記(107)

基(もとい)さんのいない春
内山思考 


子規全集春山のごと誘えり  思考

子規全集と天狗倉山












福田基さんの訃報は1月の風来俳句会の席上で、和田悟朗さんによってもたらされた。驚くと同時に「ああ、基さんとうとう逝っちゃったのか」と心の底から悲しくなった。白髪で巨躯、爛々と輝く大きな眼に鷲鼻、大先輩なのに僕は失礼も省みず天狗だ妖怪だと書くわ喋るわ、本当に基さんごめんなさい。「白燕」時代からのお付き合いだから二十年ほどになろうか。

ぶっきらぼうで句会でも辛辣な発言が多かったが、実は心根のやさしい人なのは皆が知っていたし、僕はそんな基さんが大好きだった。その頃から頑丈そうな外見に似合わず病を幾つか抱えているとよく話していて、もう明日にでもどうにかなってしまいそうなことばかりいうので、そのたびに僕は「また言ってるよ、そういう人に限って長生きなんだ」と腹の中で思っていた。それも基さんごめんなさい。いつかこのコラムで大蔵書家だった基さんのマンションへ妻を連れて本を貰いに行ったことを書いた。

あの時、実は欲しかったけど言い出せなかった一冊がある。それは原逸朗(うはらいつろう)さんの句集「立春大吉」だ。その中に和田悟朗さんが俳句を始めるきっかけになったという伝説の一句

春めくや物言う蛋白質に過ぎず  逸朗

が収められている筈だった。しかし、何故か言い出せないまま帰って来てしまったのを今も少し後悔している。

福田基第八句集『虎杖の夢』は
全て手書き手作り
最後に会ったのは確か、僕が柿衞文庫で「和田悟朗・人と作品」というテーマで発表をした時だからもう四年前になるだろうか。そんなに会ってなかったのか。でも、わからない漢字や物事があるとすぐに基さんに聞くのが常だったし、そうそう、正月は必ず電話をかけたものだった。理由は簡単

賀状の句読めぬと基氏に電話  思考

見事な崩し字を読めないこちらが悪いのだが・・・・。あの日貰ったまま本棚に眠っている子規全集(全22巻)を一度最初から読んでみようかと思っている。基さん有り難う、また会いましょう。


福田基神話に帰り龍の玉  思考