2013年6月9日日曜日

尾鷲歳時記(124)

たびたびのたびの話
内山思考

借景に富士の磐石冷奴 思考

北海道でガイドさんに
貰ったミント油













僕は最近になって沖縄へしばしば行くようになったが、本来、紀伊半島の固まりつまり奈良、和歌山、大阪、三重からあまり出た経験が無い男である。例えば九州は高校の修学旅行で一度行ったきり。その時は大阪港からフェリーでの往復で、覚えていることと言ったら船内で救命胴衣の扱いを学んだこと、夜の「枕ボクシング?」でクニオくんにノックアウトされたこと、あと長崎でチャンポンを食べたことぐらいである。あの時三十代だったバスガイドさんは今どうしているだろう。

四国は平成になってすぐ松山へ一人旅をしたが運悪く台風が接近、一晩泊まっただけで逃げ帰って来た。子規堂の近くの食堂で月並みな定食を注文してから、「子規うどん」というメニューを発見してそれが食べたかったと今でも無念である。しかしこの旅で大きな出会いがあった。ふらりと立ち寄った書店で偶然、和田悟朗著「俳句と自然」を手に取ったのである。時空の不思議。その時僕の人生は一大転機を迎えたのだった。

僕のバイブル
『俳句と自然』
分かりやすく表現すれば「伊予(1)の国(2)に遊山(3)の折、子規(4)の里で悟朗(56)と出会い、悩(78)みが急(9)に遠(10)く」なった気がしたものである。あと北海道へは15年ほど前の厳寒期、妻と出掛けた。暑い土地は暑い時に、寒い土地は寒い時に旅をするのが特色を知るコツだと和田さんに聞いていたからである。

しかし帯広の旅館の軒に、タケノコを逆さにしたぐらいの氷柱が斜めに下がっているのを見たときは驚いた。富士山も中学の修学旅行で五合目へ行っただけ、だから掲句は全くの想像である。ところで今月末、僕たち夫婦と姉は島根へ旅行する計画だ。島根は一昨年亡くなった義兄の故郷である。最後の最後まで優しかった義兄が生まれ育った山河にはどんな風が吹いているのだろうか。姉も僕たち以上に楽しみにしているようだ。それともう一つ、未知の味との出会いもきっと待っているに違いない。