2013年9月1日日曜日

尾鷲歳時記(136)

清里の森にて 
内山思考

林檎食う太平洋のあたりから  思考

やまねミュージアムの前で








長い長い長い長い恵那山トンネルを抜けるとそこは南信州である。遠い山並みをチラチラ見ながら運転していると、後ろの座席の妻が「あっ、リンゴ畑」と言った。「どこ?ああ本当や」と僕、実は木になっているリンゴを見るのは生まれて初めてなのである。まだたいして赤くはないが、確かにあちらこちらの畑の緑の中に実が付いているのがよくわかる。そしてその風景は忽ち後方に流れ去る。

ああ信州にやってきたのだ。僕は思わず微笑んでしまうのだった。朝早く尾鷲を出て、ついさっき正午になったので次のサービスエリアで蕎麦を食べよう、と話し合っていたところである。で、その通り車を停め満員の食堂で席をやっと見つけて、僕たち夫婦は「冷やしとろろ蕎麦」を水木しげるさん風に表現すれば「ゾーロゾーロ」とすすり込んだのだ。そして僕は「サン津軽」を一個買って洗面所で洗い、それをカリコリかじりながら再び中央道の流れに戻った。

向かっているのは山梨県北杜市の清里の森である。そこにある「やまねミュージアム」を訪れるのが今回の旅の大きな目的なのだ。高校の同級生だった湊秋作館長に以前から「一度お越しください」とお誘いを頂きながら、なかなか機会が見つからずにいたのだが、ちょうど週末が空いているので「行かへん?」と妻に言うと、尾鷲の残暑にグッタリしていた彼女もその気になり、すぐネットでペンションを予約、この日のドライブとなったわけである。

湊博士の著書とやまねのお土産
とにかく見る景色すべてが珍しい。夢中になっているうちに山梨県に入り、ナビゲーションの指示に従って高速道路を降り、林の中の緩やかな坂道をしばらく走る内に、ああ、やっとゴールが近づいて来た。駐車場から少し森を歩くと、写真で見覚えのログハウス風の「やまねミュージアム」があった。童話に出てくるような可愛い建物である。笑顔で迎えてくれたスタッフの女性に僕は「館長さんおられますか?」と声をかけた。