2014年3月2日日曜日

江戸から東京へ(165)

山手線・日暮里(その65)
根岸(上根岸83番地の家(47)「子規庵」)
文:山尾かづひろ 


大円寺本堂









都区次(とくじ):前回は三崎(さんさき)坂の全生庵(ぜんしょうあん)でしたが、今日はどこへ案内してくれますか?

絶世の美女の碑文冴え返る  吉田ゆり

江戸璃(えどり): 前回と同様に大矢白星師に案内してもらった三崎坂の寺だけれど、浮世絵師の鈴木春信の碑と、茶汲女の笠森お仙の碑が立つことで有名な大円寺へ行くわよ。お仙の碑には「女ならでは夜の明けぬ日の本の」で始まり、「鰹のうまい頃」で終ってね、永井荷風の若き日の気負った撰文が刻み込まれているわよ。近頃は碑文を詠むのは面倒なせいか解説版が添えられているわね。笠森お仙は絶世の美女、しかも鈴木春信がその艶姿を錦絵に仕立てて売り捌いたので、江戸中の評判となったのよ。白星師の蔵書・矢田挿雲の「江戸から東京」によれば、お仙は非業の死を遂げたことになっており、同蔵書・早乙女貢の「江戸を歩く」によれば、79歳という、当時としては稀有な長寿を保っているのよ。白星師はこの点を更に研究してみると言ってたから、そのうち何か言ってくるでしょう。ちなみに大円寺は10月に菊人形を催すので笠森お仙にも会えるわよ。
都区次:日が暮れてきましたが今日はどうしますか?
江戸璃:白星師のご推奨の三崎坂の穴子寿司の「乃池」で熱燗を飲みたくなっちゃった。
都区次:いいですね。行きましょう。


笠森お仙










なほざりの悔いいささかに芽吹きかな 長屋璃子(ながやるりこ)
気紛れな生き方路地の干鰈          山尾かづひろ