2014年10月5日日曜日

尾鷲歳時記(193)

岩手の里の秋便り
内山思考 

秋晴れを笑顔と思う恩師の恩  思考

岩手産のカラスウリ








岩手の藤沢昭子さんからカラスウリが届いた。同封の手紙にカラスウリを使ったランタンの作り方が書いてある。何でも宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」にそれが出て来るのだそうだ。そうだったのか、もう一度読んでみよう、ランタンも作ってみようと思っているうちに、恵子がヘルペスの疑いでまた入院することになってしまった。移植した腎臓の方は問題ないと言うので一安心だが、僕は再び桑名の姉の家と名古屋の病院を行き来することになった。

ところでカラスウリを見ていて、自分にカラスウリの句がまったく無いのに気づいた。「そやけど真っ赤に熟れて蔓にぶら下がっていても、アケビみたいに食べられへんやんか。面白い遊びも出来へんし好きやないよ」と子供時代の僕なら言うだろう。しかしまあ待て少年よ。ずいぶん大人になった今、あらためて手にとってみると、なかなかどうして風趣豊かな秋の山の恵みじゃないか。人間の食用で無いところにかえって落ち着きを感じたりもする。で病室の椅子に腰掛けて脚も投げ出して考えたのが次の十句である。

国訛り聞かせよ北の烏瓜
夕暮れや烏瓜のみ朱で描き
戦乱の世の烏瓜ぞ と垂れる
道化にもなれと引かれる烏瓜
子の声の直線にあり烏瓜
山下りて来る子よ烏瓜提げて
ほどほどの高さを得たる烏瓜
烏瓜人にはさして用無くも
七人の敵を許せば烏瓜
烏瓜孤にして蔓の枯れ時は

ハガキにも
カラスウリ
恵子の入院が診察後に決まったので、彼女を残して一度尾鷲へ帰ると(すべて高速道を走って約二時間になった)、名古屋を出掛けに連絡しておいた娘の弥生が、仕事を早引きして着替えに入院道具一式を用意して玄関先に置いてくれていた。郵便物はと見ると、何通かのダイレクトメールに挟まって和歌山のサチコさんからハガキが届いている。関東に行って来ましたと言う文面を飾るように、そこにも赤いカラスウリが描かれてあった。