2015年2月1日日曜日

尾鷲歳時記(210)

ムーチービーサ 
内山思考 

伝説に鬼は欠かせず力餅   思考

昼食はムーチー








1月27日(旧暦12月8日)は「鬼餅(ムーチー)の日」である。沖縄ではこの日、餅を月桃の葉に包んで蒸した粽を食べ無病息災を願う。いわゆる鬼やらいである。前日のマーケットには、月桃のいい匂いを漂わせた沢山の鬼餅(力餅とも言うらしい)が並び、ほとんどの買い物客がカゴにそれを入れて行く。

外見は葉の緑一色だが、中は白、黒糖、紅(紅芋)、緑(ヨモギ)などがありいずれも甘い。でもひろこさんに言わせると、砂糖を入れるなんて最近の風潮で、何も入れない白餅を砂糖やきな粉につけるのが本来の食べ方なのだそうだ。これ、同じように見えて実は違って、味を自分で調整出来る利点がある。たとえば、刺身の上から醤油をかけるのと、小皿に入れた醤油に刺身をつける差とでも言おうか。

さて内山夫婦も郷に従い鬼餅を買って来てレンジでチンしたら、それでなくても柔らかな餅が葉っぱに糊状にくっ付いて難儀した。翌日、散歩の途中で行き着けの喫茶店のお姉さんに聞くと、出来立てより1、2日置いた方が葉離れがいいよ、レンジも少し、とのこと。そして帰り際に「内山さん、これあげる」とプレゼントされた老舗の鬼餅の袋を下げて、僕はアパートへの復路を辿った。

寒くてもコスモスが
鬼餅の由来はこうだ。昔々、兄が鬼になって人を喰うことに心を痛めた妹が、一計を案じ、山上に棲む兄を訪ねた。妹はまず兄に鉄入り餅を食わせ、自分は普通の餅を股を広げてムシャムシャ食べた。硬い餅を平気で喰う妹の姿を恐れた兄が、「下の口は何だ?」と聞くと、間髪を入れず妹が「上の口では餅を喰い、下の口では鬼を喰う」と答えたので、兄は驚きのあまり崖から真っ逆様に落ちて死んだ、その日が12月8日だったというのである。得てして民話は内容が凄惨であっても、それを上回る大らかさ滑稽さに満ちているものである。ちなみにこの時期に寒い日が続くことを「鬼餅冷さ(ムーチービーサ)」と言うそうだ。

徒歩五分鬼餅寒(おにもちざむ)の小買物   思考