2015年3月8日日曜日

尾鷲歳時記(215)

木と語る手、手に馴染む木 
内山思考 

花すみれ私事(わたくしごと)として咲けり  思考 

クラフト感いっぱいの店内








普通に暮らしていると空気や水、草花や樹木はあって当たり前のものだが、何かの折にふと、その存在に心奪われることがある。たとえば誰もいない野山で深呼吸したり、喧騒の道端に咲く小さな花を見つけたりした時に、ああ、いいなあと忘我する。その感覚は文明の度数に関わりなく、人間が本来持っている自然への融合感だと思う。

和田悟朗風に言えば自分も地球の一部だと認識する状態である。いや、意識認識というよりほとんど無意識かも知れない。尾鷲は海と山に思い切り挟まれている町だから、存分にその心地よさを味わうことが出来る。先日、市内のクラフトショップを訪れてあらためてこの地方の木の温かさ柔らかさに触れることができた。

若い女性が一人で尾鷲ヒノキをベースにした木工品を作っている、という話はずいぶん前に恵子から聞いていたのだ。一度会ってみたいなと思いつつ、まあその内に機会があれば・・・・で何年経ったろう。息子の結婚式の引き出物を考えていて、ふと木工品のイメージが浮かんだのである。顔馴染みだという恵子が事前に連絡して、市の西側の山の麓へ車を走らせると、住宅街の中ほどに「えびすや」と書いた小さな看板があった。

笑顔で迎えてくれた主は大形弥生さん、娘と同じ名前なのも嬉しい。店内の棚々には彼女の作った木工製品がたくさん並んでいてどれも愉快だ。引き出物選びは恵子に任せて、僕は可愛くディフォルメされた動物の玩具を一つ一つ眺めた。干支のヒツジがいる。ゾウがクジラがパンダがいる、こちらの棚にはパズルが。
製品カタログ
「お父さん、ちょっと見て!」の声で我に返って、恵子の手元の料理へら、バターナイフ、スプーンなどのセットにも目をやる。用事がすんだ後で「昼寝用の枕って出来ませんか?」「どんな形か言って貰えれば」のやり取りがあって、どうやらこの夏僕は、尾鷲ヒノキ製のオリジナル木枕で森林浴的昼寝を楽しめそうである。