2015年5月3日日曜日

尾鷲歳時記(223)

夢の中の少女 
内山思考

春山の大からくりを廻す水  思考

ある朝の景













 今朝、夢を見た。ザワザワと騒がしい部屋に自分は居て、右側に黒板(例の濃い緑色)があり沢山の人が席を立ち、あるいは固まって雑談している。学校の教室のようだ。見知った顔が結構いるとその時は感じたが、今は誰一人思い出せない。しばらくすると背の高い短髪の男が壇に上がり、「今日は内山思考さんの講座があります。内山さんどうぞ」とぶっきらぼうに告げて消えた。

そうだったのか、と僕は黒板の前に立って話し始めようとしたら、資料が手元に無い。あ、あれを忘れたと悔やむ。でもまあいいや、一時間ぐらいなら何とかなる、と話し始めるところなど、夢とは言え大した度胸ではないか。

まずは近況を交えて自己紹介をし、日常生活の時間と空間を切り取って考えると興味深い、などと蘊蓄の引き出しをかき回して説明するが、誰も聞いていず私語が多い。手を叩いて注目を促そうとしたが、待てよ、それよりはと閃き、大声で「では今から即吟十句をご覧に入れます。どなたか手を挙げて下さい」と言うと、やや静まった場内に何人かの挙手を得た。

僕は中央にいる髪の長い少女を指し「ハイ貴女、貴女は何月生まれ?」と問うと少女は少しはにかんだ様子で「6月です、18日です」と答えた。間髪を入れず「六月の・・・風新しき世界かな」「喧騒の六月少女美しき」「六月や飯食いに行く町外れ」と声を張り上げて詠んでゆく。兎に角、風景を思い浮かべて片っ端から五・七・五にして行くのだ。

一昨年、奈良公園で
六月ばかりでは芸がない、「難波(なんば)にてラーメン食えば仲夏なる」これは「六月」、「仲夏」、「中華」の連想である。座の視線がこちらに集まる手応えにしめしめと思ったところで目が覚めた。面白い夢やったな、しかしあの子ハッキリ誕生日言うたな、6月18日やって・・・、「エッ」僕は驚いた。それは和田悟朗さんの誕生日ではないか。先生、姿を変えて僕の話を聴きに来てくれたんや。そう思うと鼻の奥がツンとした。還暦過ぎると男は涙もろくなるらしい。