2015年6月21日日曜日

尾鷲歳時記(230)

わんこそば百八句(前) 
内山思考 

雨音と雨垂れの音籠枕   思考

夏鶯が鳴く雨の庭













妹が手の小椀のソバの頼もしき
/盛りとざる静なりわんこそばは動
わんこそば我に競いの心あり
水熱く冷たく食の舞台裏
みちのくのソバ待つ伊勢の国の客
たかがソバされどソバこのときめきは
先の客百杯とかやわんこそば
イントロに似て食前の氷菓舐む
わんこそば前に一同笑み交わす
この客はわんこそばよく食う客か
ソバよいざ来よと小椀を側に待つ
蕎麦ツルと御坊が妻の喉滑る
急ぐなと言いつつ囃すソバの主
喉へソバ消える一、二度歯に触れて
椀のソバ迎える客の顔四つ
食べる時やや目が吊りぬわんこそば
ソバ食えど皿の肴に目もくれず
箸離す暇なき旅の蕎麦戦(いくさ)
己が喉竹の樋とし流しソバ
わんこそば腕時計にも汁跳ねる
夏痩せはせぬぞ食い意地では負けぬ
汁桶に汁溜まりゆくわんこそば
気まぐれやまたも椀子のソバ多し
捨て汁に波打つ桶やわんこそば
子燕の口にも似たり椀騒ぐ
天地に旅情失せたりわんこそば
一本のソバを二本の箸で追う
みちのくのソバ積もりゆく胃の腑かな
このソバの里は岩手のどのあたり
いつも酒通る御坊の喉に蕎麦
わんこそばたけなわ次の客は来ず
汁の香の存外強き北のソバ
蕎麦一息紅葉おろしの口直し
脳内をソバで満たして急ぎ食い
わんこそば鼻掻く暇もなかりけり
わんこそばおかずも食えと言われても
わんこそばとは四次元の飲み物か
ソバ啜る妻の食欲嬉しくて
眼前の僧の真顔やわんこそば
ソバやソバああ汁の香が鼻につく
椀にまだ誰も蓋せぬソバ世界
箸置いて蕎麦を見ている高橋氏
喋ること忘れてソバを啜る口
ソバの椀幾つつかむや仲居の手
仲居の手ソバ投げ入れてすぐ縮む
手を拭うのはソバ腹を撫でるため
箸の槍前掛けの盾蕎麦の乱
旅の胃を蕎麦一色で染めるなり
金の糸やがては鉄にわんこそば
椀の底箸でかく音ソバを呑む
行儀よく盛り蕎麦が行く店の中
蕎麦の香の溜め息をつく美人かな
阿羅漢の髭までソバの匂いかな
満腹の上にまだソバ降り積もる

立て岩(板)に水
奥入瀬で














 (つづく)