2015年6月28日日曜日

尾鷲歳時記(231)

わんこそば百八句(後) 
内山思考 

少年や泳ぎごころにペダル踏む  思考

この二人も
蕎麦好きだったろうか














二度とソバ食わぬぞと言い笑わせる
ソバの椀重ね煩悩楽しめる
食うとき忙し縄文の鼻呼吸
厨には蕎麦無尽蔵ごゆるりと
箸先に蕎麦重くなる食い疲れ
曖昧な笑いを蕎麦に集めたる
ソバ怖し次の一椀目の前に
わんこそばもう励ますなすすめるな
幾筋のソバが岩手の山に見ゆ
蕎麦の神失笑せるか凡の胃に
ソバの椀一人となれば殺到す
食う限り止まらぬソバの時間かな
蕎麦つゆの染みたる舌で語り合う
このソバの一つの味で押してくる
押し返すわけにもいかずソバを呑む
替えソバを提げて仲居のすぐ戻る
ソバ食うに足の裏さえ動くなり
飽きるほど食いたりソバの名は知らず
百歳は長寿 ソバ百杯は並み
ソバよ汝がために心身無にしたる
北の凍て知らずひたすらソバを食う
地の訛り聞けば弥増すソバの味
見られつつ食うソバやがて味失せて
空椀を見逃さずソバ投げ入れる
茶をわずか飲んではソバに戻るなり
のみすすりくえども噛まず椀のソバ
一椀の蕎麦にも海と山の声
ひとときを蕎麦の虜となりたるよ
蕎麦つゆや輪廻の先の峰の雲
空腹と満腹の間の蕎麦まみれ
蕎麦引いている記憶あり母もおり
仮名文字を積む如く胃に降りる蕎麦
次のソバ来るまで山葵舐めており
熟練の技椀返しソバ移し
ソバ好きか否か仲居のこの二人
夫婦共ソバに膨れし腹まわり
ソバ百杯食べて面目立ちしかな
雨に負けぬ賢治の里の蕎麦を食う
緊張緩和してわんこそば終わる
ソバ腹を抱えし天女舞えざりし
椀に蓋して箸置いて蕎麦を消す
わんこそば百八杯の手形受く
ソバ打つ人食う人会わぬまま別れ
ソバ百杯食べてよろよろ立ち上がる
ソバの椀鎮まり夏の世に帰る
席を立つそれぞれの身にソバを詰め
ささやかな蕎麦の縁へ合掌す
ざるそばをゆっくり手繰る人に会う
満腹の胃へ血は巡り風薫る
斯くて去る一期一会の蕎麦処
ソバ疲れ熱きコーヒーにて癒やす
昼のソバ忘れて宵のカレーかな
わんこそば早や懐かしきまたいつか
みちのくの話のタネも若葉して

本日校正中













 (以上)