2015年10月25日日曜日

尾鷲歳時記(248)

速玉(はやたま)さんの歌声 
内山思考 

静かなる神の立ち居や木の実降る   思考

左からとしこ、かねみ、みつる、みどり
の各嬢









小さな木の笛、コカリナの奏者でシンガーソングライターの黒坂黒太郎さんと、奥さんの歌手、周美(かねみ)さんが、和歌山県新宮市の速玉大社(熊野三山の一社)で奉納コンサートをおこなうというので聴きに出掛けた。周美さんは新宮高校時代のクラスメートだ。多分、同級生たちも来るだろうから、秋晴れの中で学生気分に戻って過ごすのはステキなことだ。

わくわくしながら七里御浜を左に見て国道42号線を疾走すれば、案の定、ずいぶん前に新宮大橋を越えてしまった。最初の交差点を右に曲がればもうそこが速玉さんである。さすがは世界遺産の熊野三山、数台止まった大型バスのまわりを参拝の観光客が行ったり来たり。「やっぱりな」惠子が呟く。そんなに早く出なくてもと言ったのを、イラチの僕は無視して出発して来たのだ。でも、敷地内に建つ「佐藤春夫記念館」を見学するいい機会ではないか。

佐藤春夫記念館の前で
紀州育ちの僕は子供の頃から、この偉大な文豪に親近感を抱いている。まあ、名前が同じ「はるお(僕は晴雄)」と言うだけで作品を深く理解しているわけではないのだけれど。そして時間まで僕と惠子は、東京から移築されたという佐藤春夫の旧宅に浪漫の心を遊ばせたのであった。



速玉大社二十句

木犀の金字をなせる大気かな
大河にも海にも近き秋社(やしろ)
色鳥や神域をもて塒(ねぐら)とす
稲刈りのあと田園は憂鬱か
三山に詣でよ秋刀魚食いに来よ
神前に糸瓜ごころを鎮めたり
文豪や喫煙撮られ秋袷
秋澄みて影も明るき宮の前
手柄杓へ竜が水吐く秋うらら
同級生秋果市場のごと集う
明日よりも過去を自在に飛ぶ小鳥
秋声の祝詞に太古呼応せり
賽銭に瞬時の浮力 音爽やか
奉る美声や紀伊の秋深し
羽根せわし曲の間(あわい)の稲雀
笛の音に言霊を乗せ菊の月
秋日和「天・神宮・礼す(アメージン・グレース)」朗々と
麗しや本殿に鳴く鈴虫は
朝は白露 夜は酒精に湿す喉
直線を神意と思う月の距離