2015年11月15日日曜日

尾鷲歳時記(251)

冬の旅・銀杏の巻  
内山思考 

薬喰(くすりぐい)顔を見合わせては笑う  思考 


安養寺の石磴をのぼる












立冬の声を聴いて旅に出掛けた。初日に、島根は奥出雲のお寺を訪ね、その日は岡山市に宿泊、翌日フェリーで小豆島に渡りオリーブと「二十四の瞳」の島を探求、さらに一泊して島の西側の福田港から姫路経由で帰路につくというスケジュールだ。もとは妙長寺の青木上人たちが、三明副住職の学生時代の友人(僧侶)に会いに行く計画で、それに内山夫婦も便乗させてもらったのである。何でも、そのお寺には天をつく銀杏の大木があって当季は見事な黄葉風景が見られるとのこと。

重い雨雲を気にしながら朝六時に出発、朝食を甲賀土山のSAで済ませると、一行の車は京都の南をひと舐めし播磨、美作、備中備後と快調に走り何処やら(忘れた)のSAで昼食後、東条ICから一般道に降りて山中を北上した。立冬を過ぎたとは言えまだ晩秋の気配が濃く残る野山は、黄色と紅色が小雨に濡れてまことに美しい。急がぬ旅の気安さで幾度か路肩に停車しては撮ったり撮られたり、昼過ぎにようやく目的地の安養寺(田中祐司住職)へ到着した。
金言寺初冬風景
雨に濡れた石段を先に登った青木夫人が歓声を上げた。後に続くと境内一面が銀杏の落葉で金色に輝いている。枝はあらかた裸になっているがこれはこれで見事な景色だ。しかし驚くのはまだ早かった。庫裏に通されてしばし談笑のあと、住職の車の先導で案内された金言寺(住職の本寺で父君、田中克彦上人がおられる)には樹齢七百年余の大銀杏の枝々が、冬雲を鷲掴みにするように聳えて我々を迎えてくれたのである。高さがあるだけに散った黄葉が本堂の屋根(なんと茅葺き)や巨樹を映す浅い田の水辺水底に広がり、紀伊の国の旅人はただ眼を見張るばかりであった。

雲近き鷲の翼よ鈴鹿越え
凩や都の裾を掠めたる
石州に冬は至りぬ赤瓦
冬浅し紀伊と出雲の僧和して
五つ六つ時雨傘寄る里の寺
曇天の銀 南無 銀杏落葉の金
冬田に水張りぬ巨木を映すため
水の面に逆さ銀杏や三十三才(みそさざい)
住職の金言染みる長火鉢
夕景や城址は冬の雲の中