2015年12月6日日曜日

尾鷲歳時記(254)

富士を離れて 
内山思考

神々につられて水木しげる逝く   思考



旅のいろいろ

水木しげるさんのファンだった















内山思考の第4句集を作った。と言っても手書きのものが二冊だけ、題名は「葛飾北斎・冨嶽三十六景46枚各十句」と長い、内容についてはあとがき参照、即ち「日蓮宗妙長寺 青木健斉上人に冨嶽三十六景絵葉書セットを頂戴したので、一景一句をと作り始めたらついつい北斎画の中に入り込むのが楽しくて、気付けば買い足して四十六景460句。登場人物と一緒に旅をしている心地よさは格別であった。いい時間を過ごさせて貰ったことを青木上人と北斎先生に感謝する次第」ということなのである。

冨嶽が主題の版画だから当然絵のどこかに必ず富士山があり、じっくりと睨んでいるとそれが景色に絶妙な奥行きを与えていることがよくわかった。季節が特定出来ないものは無季とした。その一部を紹介すると。
「尾州不二見原」
眺めなど放って桶屋の肌脱ぎで
嚊より扱い易き槍鉋(やりがんな)
盆は来る円周率を知らずとも
ハムスターではない桶屋廻らない
底抜けの桶の中身は桶屋だけ
金輪際箍(たが)の緩まぬ働き手
尾州生まれ銑(せん)という名の両手鎌
筋骨を綰(たが)ねて一人仕事かな
突っ伏して掛矢は出番待っており
気になるや稲とこの桶いつ出来る
 「駿州江尻」
それぞれの旅に追い風向かい風
風の子の舞うては人をふためかす
「あれ笠が紙が」の声も風に消ゆ
羽搏きも鳴きもせず飛ぶ笠と紙
笠惜しや不二を忘れてただ嘆く
大喝す風の関所の鬼奉行
万能の懐紙の技の飛翔かな
気圧の差荒く女体を吹き抜ける
先の世は夫婦なりしを富士見の樹
雨以外動ぜず飛脚一目散
 「礫川雪の旦」
酒もて来い火を足せ朝の雪見茶屋
小石川咫尺(しせき)の不二の真白なる
町並みや朝日が落とす枝の雪
人気(ひとけ)なき真冬の不二の人気(にんき)かな
雪の日の色を集めて一座敷
熱燗や不二を肴にさんざめく
雪まろげする町の子はまだ寝床
鳥三羽三点をなす冬の空
粋も通も江戸の寒さに耐えてこそ
旦那衆の懐ぬくき雪景色